持久走

1000m走の極意をがある。

一つ、序盤に全力は出してはならない。

一つ、相手に騙されてはいけない。

一つ、後ろを向いてはいけない。

 

本編

.......始まったついに始まった。この時が.....僕がどれほどこの機会を待ち望んでいたことだろう。今までクラスの花子ちゃんに告白しようと思っていたのだが、いまいち自分のアピールポイントが見つかっていなかった。いや、話しかけようとは考えてはいたが、今一つ勇気が出なかった。

......このままではいま告白していても、確実に僕は振られてしまう、これは確実だ。

だが、僕に唯一のチャンスが回ってきた。それは1000m競争だ。

.....1000m走だけでチャンスがあるのはどうかと思うが、幸いにも花子ちゃんと僕の年は12才、悪いが小学生の恋愛脳などとるに足らない。足が速ければモテるのが小学生の仕組みだ。これは揺るがない。これが常識なんだ。

なぜなら、事前に僕は調査したところ花子ちゃんの好きな男性のタイプは足が速い人だという事はすでに知っている。つまり僕がここで1位を取ることができれば僕は確実に当確。というわけだ。

 

僕はこの日のために入念に準備してきた。毎日2㎞のランニング、シミュレーションをしてきた。

.....さあ、女子の800mマラソンがそろそろ終わりを告げる....いよいよ僕の番だ。

そんな時に僕のクラスメイトからはなしかけられた。

 

なあ、勘助、持久走だるいよなーゆっくりはしろうぜ

ああ、そうだな。

 

僕はその言葉に仏のような笑みをうかべ返答した。

.........

..............

.......................

なわけねーだろ!バーカ。悪いがそんな言葉を信用することができるのは、本当にお人よしか、馬鹿の二択それだけだ!

悪いがお前の調査は抜かりない。お前は以前だってそういった言葉で僕をだましてきた

。知ってるんだぞ。あの4年生の時の持久走を!僕はその時は13位だったが、走り終わった時にお前は5位だったよな!しかも序盤から全力をだして!

僕は追及したよな!なんて言ったか忘れたのか?「ああ、そんなこといってたっけ?」だろ!

悪いがそんな言葉は世の中の信用できないランキング10位以内にはランクインしているんだぞ!

ちなみに一位は「記憶にございません。」

二位は「テスト勉強全然してなかったわー」

三位は「行けたら行く」

だ!

......ああ、話が脱線してしまった。つまりお前はその信用できない言葉ランキングの中でランクインしている言葉を使った。悪いが今回の持久走は命を懸けてるんだ!だまされるわけがない。

 

......おっと....そんなことを考えている合間にももう始まるぞ、呼吸をととのえなければ....

 

位置について.....

 

はあ、始まる,,,,,

 

よーい.....

 

ドン!

 

始まった.....僕にとっての戦争が、運命の勝負が!

ここでまず僕はここで序盤の勝ちを握らなければならない、この密集地帯で前に出なければ勝ちはないからだ!先頭グループに紛れなければ.....ここで仮に勝負に出なければ僕はぬるく走っているグループに巻き込まれ前に出ることはできずに餌食にされてしまう事だろう....ここでスピードを出さなければ。さあ、密集している雑魚どもどけどけ!!

 

13位、12位、11位、10位.....

 

よし序盤はこんなところだろう.....この序盤で体力は8分の3ほど使ってしまった....まあ、緊張もあってこれは仕方のないことだろ.....むしろここはこの程度の体力で上位陣に紛れたのをほめるべきだろう。

うん、勘助!えらいえらい!

 

......ズキッ!!

 

.......ちくしょうここで来てしまったか...横腹の痛みが!

 

くそ!くそ!くそ!この苦痛はかなりやばい、いいか、持久走というものは単なる実力勝負だと思われがちだが、そうではない!なぜなら、この予知しようのない腹痛が長距離走の中であるからだ!短距離ではこういった痛みは起きないが長距離走では違う!!

いくつかシミュレーションしてきたが、こんなに早く起きてしまうとは.....

このままではまずい.......仕方ないが、ここでプランを変えよう.....

 

僕は今まであった体力を使い切るように全力で走った......

まあ、腹痛はこの長距離走の中でよくあることだ。ならば対処法も僕自身の中で知っている....それは、全力で走り痛みをマヒさせることだ。これは自爆特攻かもしれないが僕にとってはかなりの有効策....最悪また痛みが走ったら横腹をつねってまた痛みをマヒさせるしかない........

 

4位、3位、2位、まで行くことができたが、これはまずい....まだ、250mもあるのに体力のほとんどを使い切ってしまった.....もう頭でシミュレーションする余裕が全くない....

息切れもひどい.....だが、腹痛はある程度なくなった!

そして俺には俺は花ちゃんに告白するという使命がある!これだけが譲れない!これは自分で決めたんだ!絶対に成し遂げて見せる!

 

........とりあえず落ち着いて状況を整理しよう......今この地点で残り200mそして2位だ。

とりあえずこの腹痛がなくなりかけている今がチャンスだ!この調子で1位に奴を抜かしてやる......ん?んん?ん?

 

まさかあいつは.......走る前に俺にゆっくり走ろうとか提案してきたあいつか?

嘘だろ?嘘だろ!おま、お前それはいくら何でもないだろが!そういうことを言うやつは大抵、8位付近の上位陣でいい感じのラインにいることがセオリーなんじゃないのか?てめ、まさか、その必死顔.....お前も花ちゃん狙いという事ではないだろな....

返答次第では許さねえぞ......いいやこうなったら意地でも勝ってやる......みてろ!

 

僕はここで全力を出した。なぜかって?仮にここで追いついて一緒に走るやつはいるだろうか?いやいない!ここで、1位を狙うやつは間違いなく何かを懸けている奴だ!並んだ瞬間、抜かされてまた、抜き返すという最悪のループになってしまう。

ここで確実に抜かす!

おおおおおおおお!

ここで僕はあいつを抜かしたのだ!もう、抜かされないようにするためにゴール一直線まっしぐらに腹がちぎれそうになりながらはしった!ここで後ろを向いたら確実に終わるそんな予感がしていた。向いた瞬間僕のスピードが落ちてあいつに抜かされるのがわかっていたからだ。ああ、残り....

 

50m

 

ああ、早く.....

 

20m

 

終わってくれ!!!!

 

 

.............

 

 

 

僕は勝った........結果は一位だ.....うれしい....ほんとに純粋にうれしい.....今まで持久走で1位を取ったことはないが、この勝ったという結果は僕にどれほどの勝ちをもたらすのだろう。どれほど僕に勇気をくれるのだろ.....それはわからない......

2位のあのあいつは僕をたたえてくれてクラスのみんなは見直したと言ってくれた.....

いや、うれしい。ほんとにうれしい。だが!ここで僕の視線はある人へ向けられた。

そうだ!僕はここでまた、試練が残っている....花ちゃんに告るのだ!

ここまで来たのだ、僕にはその権利がある!知名度がある!

さあ、行こう.......いやとりあえずここは持久走終わりの放課後に伝えよう....

 

 

.........

勘助「花ちゃん僕は君のことが好きです!付き合ってください!」

緊張の鼓動が走った僕は心臓がバクバクになるのがよくわかる....

花「ええと君持久走で一位を取った人だよね?」

勘助「うん、そうだよ!ありがとう知ってくれていたんだね!」

うれしい、これは、この感触は当選確実か?

花「うん、でも。お断りさせてください。」

勘助「え、なんで?」

花「あなたのことよく知らないし......それに......」

勘助「それに......?」

花「走っている姿があまりにも....その...歯をむき出しにしていて競走馬にしか見えなかったから.....クラスのみんなの君のことをネタにしているよ.....ダサいって....そんな人とは、ちょっと付き合うことができないの......ごめんなさい!」

 

.........

1000m走の極意がある。

 

一つ、序盤に全力は出してはならない。
一つ、相手に騙されてはいけない。
一つ、後ろを向いてはいけない。

一つ、全力で走ってはならない。